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第13回 森 太一さん(2017秋合宿)

今回は、2017年秋合宿に参加された医大休学中の森太一さんをご紹介します。

止まらないほど話題が広がり続ける楽しいインタビューの中で、質問を投げかけると、「おお、それはおもしろい質問ですね……」とぐっと黙り込んで考え思索に沈む、その緩急の差が印象的でした。

「分からない」を「おもしろい」の入り口ととらえられたら、日々は「おもしろい」だらけです。[Text: 西岡妙子]

隣の芝は青く見えるというのなら、どれだけ青いか見てやろう。

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北海道旭川市にある医大の4年生ですが、実習に入る前に休学して、もうすぐ1年になります。この一年、いろんな経験をしました。

休学をした理由の一つは、医療の未来を見極める必要性を感じたからです。診療の際の意思決定プロセスを考えれば考えるほど、「AIの方が対時間、対報酬あたりでいい仕事ができるんじゃないか?」と、危機感に似た仮説に至りました。

医師が、知識・経験を価値として提供し、報酬を得ているのならば、それはAIで代替可能であり、医師の本質的な価値は最も代替可能なのではないか、と。すぐにその時代が訪れないとしても、自分が医師として働き盛りの時代にはそうなるなと思いました。

「医師に必要なのは知識だけじゃない、人間性やリーダーシップも重要だ」という見方も分かりますが、それはどんな仕事にだって必要なこと。

それで、自分の身の振り方を再考する必要性があるのではないかと考えました。しかし、こんなことを考えている人が周りにいなく、周りがおかしいのか、自分がおかしいのか……について結論がつけられず、とりあえず休学にしたんです。

もう一つの理由は、医学部で勉強を続け、この後研修医、医者となっていくにつれて、専門性が高まる反面、世界が狭くなるな、と感じたことです。視野と可能性を広げて、他の世界も見ておかないと、本気で飛び込めないと思いました。医学は本当に面白い分野なのですが、他のジャンルへの好奇心が止められなかったんです(笑)。隣の芝だから青く見えたのかもしれない。だったら、どれだけ青いのか見てやろう。そんな気持ちでした。

大学3年時に海外ビジネス武者修行プログラムに参加し、戻ってきて休学しました。武者修行を運営する旅武者で、営業インターンをしています。休学してすぐのころには、前田塾の大阪展開に挑戦していました。今は、医療ベンチャーに勤務していて、復学しても業務委託で仕事を続けさせてもらえることになっています。

mushashugyo.jp

その会社で、メンタ―というべき人生の先輩に出会いました。50代の大学教授で、その会社にも勤務し、好奇心を忘れずに、医師としての仕事もとても楽しんでいる先生の生き方を見ていて、大学に戻って医療の道をもう一度目指す決心ができました。

医療問題は、日本最大の課題のひとつ。このまま医療費が高騰を続けると財政は破綻し、現状の保険医療を提供出来なくなることは必至です。そして、高齢者の増加に対応するためには、効率化は必須です。

現在、来るべき超高齢者社会に対応すべく在宅医療が増加しています。一方で、在宅医療等は始まったばかりという部分も多いため、効率化の余地が多分にあるかと考えています。特にデータを用いることでもっと効率化出来るのではないか。そうすれば、医師・患者さん双方にとってより良い医療を届けることが出来るのではないかと考えております。今の勤務先でも、データによる在宅医療効率化に関連した業務を行っています。

とにかく元気が良かった

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年子の弟(左)と。

医大を志したのは、高校生の頃。

中学生のころにリーマンショックがあり、父がそのあおりで苦労していました。それで父は、僕と年子の弟に、「ただ良い大学に行き、良い就職をするというのは意味がない。大学に行きたいなら、目的を持って進学しなさい」と言っていて、大学では何か目的をもって学ぶか、研究をしたいと考えていました。

高校入学時には、宇宙工学に関心があり、高2のときに、JAXAで開かれた5泊6日の「サイエンス・サマー・キャンプ」に参加しました。そこには全国から宇宙好きが来ていて、周りの「宇宙好き度」に負けた、と思いました(笑)。太陽光パネルの美しさについて熱く語ってる同年代のマニアがいて、ちょっと僕にはないな、って(笑)。それで、進路を考え直したんです。

自分にとって大切なことは「自由」。どうすれば自由になれるか、自己裁量を増やして生きていけるか……。「自分に確固たるもの、手に職があればいいのではないか」と考え、医師を目指すようになりました。宇宙にも、医療の側から関わることもできますし。

生まれ育ちは鳥取で、小・中・高と、ずっと野球をやっていました。弟がキャッチャーで、僕はピッチャー。打順は1番が多かったですね。切り込み隊長的な役割です。とにかく元気が良かったからかな。(笑)

大学からは、せっかく北海道に来たんだから北海道でなければできないことを、と思って、カヌー部に入り、川中心の生活を送ってました。北海道には美しい川がたくさんあるんです。やるなら徹底的に、と思って、大学3年の夏まで打ち込みました。

普通のスポーツだと、チームが弱いと「勝てない」や「下手」で終わりですが、カヌーで、「弱い」はすなわち「事故」そして「死」を意味します。だから、安全こそが、部活のキー。チームの力を見極めて、シビアな判断が必要になります。うまい人が多ければ激しい川に挑戦できるし、初心者が多ければ無理はしない。シビアな意思決定をし、難所に挑戦する先輩たちが楽しそうだったので、先輩を目指してがんばりました。水を感じる日々を送り、少しずつ技を磨きました。

身体を動かすのが好きなので、ときどき家の周りや公園を走ってリフレッシュしています。

最近読んだ本で面白かったのは、サマセット・モームの「サミングアップ」というエッセイ。勤務先の先生に勧められて読みました。人生や考え方について鋭く切り込んでいて、長年思っていたことが言語化された部分もあり、すっきりしました。

それから、HBR 10 Must Read Seriesの「Mental Toughness」を今読んでいて、おすすめです。

エントロピーの増大に乗っかって行ったらどうなるだろう?

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前田塾に参加したのは、2017年の合宿が最初です。在学中に参加した武者修行のコミュニティで、「前田塾」というワードが度々話題に上がっていたので、ずっと関心がありました。

自分の中に実務レベルでできることを増やしていきたい。それから、これから生きていく上で、何をやるべきか、大まかな世界地図を得たい、と思ったからです。開講されることを知り、すぐに申し込みました。どんなものか、確かめに行こう、と。

受講して、社会からの情報の取り方、自分なりの咀嚼の仕方、それから道に迷ったときに、どうやって確かめるかその術を学びました。自分で情報を解釈できるようになると、今やっていることや、これからやるべきことの意味が分かります。そのうえで道を選んだ方が、おもしろいのではと思いました。

参加するのは、若ければ若いほどいいと思います。中学生で参加したかったくらいです。大学選ぶときに、自分が何ができて何をやりたいのか、そのためにはどの大学のどの学部なのか、そういうことを考える時間も、情報も不足している。模試の結果や偏差値だけでは、進路を選べるはずがないですよね。

前ちゃんには、一番最初に、ブロックチェーンのことで話しかけたんです。僕の話を聞いて、「こういうこと?」って言い換えて具体に落としてくれて、僕の「知りたい」という欲求に対して、いろんなボールを投げてくれた。そして、分からないことは「分からない」ってはっきり言ってくれるところが、すごいなと思いました。分からないことをごまかそうとする方はたくさんいましたから、率直で信頼できると感じましたし、その「在り方」を学びたいと感じました。

前ちゃんイズムに影響を受けて、大阪前田塾をやったり、ホームパーティーをやってた時期もあります。(笑)旭川に戻るので定期講座への参加は難しいのですが、今後もAI系の講座にまた出たい。

maedajukumath.site

復学後は実習ののち、国家試験に向かって勉強して、ゆくゆくはASEANで働ける医者になりたいと思っています。地域に縛られず、海外で働くことも視野に入れたときに、アメリカの医師免許取得が今は流行っているのですが、このペースではおそらく供給過剰になっていく。ASEANは戦略的に成長している地域であり、何よりも、アジアのエネルギー溢れる感じが大好きです。社会改革のためには医療ビジネスにも関わっていきたいですが、まずは現場を知りたい。

「エネルギー量は増大し続け、やがてカオスとなり、最後は死に至る」というエントロピーの法則を学んだ時に、わくわくするけれど怖いな、と感じました。安全に生きていくためには、エントロピーを抑える方向を目指すべき。でも、「エントロピーの増大に乗っかって行ったらどうなるだろう?」とふと思ったんです。アジアのカオスにエネルギーを感じたように、カオスの中の恐怖を押さえるのではなく、その熱量を利用できたらおもしろいだろうな、って。そのためには、振り落とされず生きていく術を得なければならないし、才覚も必要。まだ若いので、「自分の才覚で食べていく」方向を目指して、エネルギーの増大を感じて生きてみたい。

「広大な宇宙の中で、我々は生まれて死んでいく。人間の小さな人生に意味はない」という趣旨のことが、先ほど紹介したモームの本にも書かれていて、「生きていることに特別意味はない」と、共感しています。意味付けしたいという思いもありますが、「意味がない」が大前提だというのが僕の考えです。

だからこそ、面白いことは、自分で見つけていきたい、面白くしたい。「おもしろき こともなき世を おもしろく」という高杉晋作の句が表しているような在り方で、生きて、切り開きたいと、強く思います。

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「人間たちは、急行列車に乗り込むけれど、自分たちが何を探しているのか分かっていない。子どもたちだけが顔を窓にくっつけて、夢中で外を見てるんだ」

というサン=デグジュベリ『星の王子様』の一節を思い浮かべました。

「世の中はそういうものだから」と納得し、あるいは諦めて、小さな疑問に蓋をして……。そうやって、感覚を麻痺させることに慣れてしまった大人たちにまっ直ぐな問いかけを投げかけるのは、子どもたち。多くの寓話にもそう描かれています。

好奇心を大切に、失敗も成功もひっくるめてのたくさんの体験談。冒険の続きが気になりますね。